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その21:カエンタケの毒性と駆除の是非について

はじめに

 今回はちょっと真面目な記事です。記事内に人によってはショッキングに感じるような画像も出てきますのでご注意ください。また一部を切り取ることで本旨が意図しない形で伝わらないよう、読まれる際は最後まで目を通していただきますようお願い申し上げます。記事の引用、拡散は存分にしていただいて結構ですが、上記の理由から記事全文を確認できるように本記事へのリンクを合わせてご掲載ください。

 

 加えて、本記事内では大変危険な実験を行い、その結果を掲載しております。これは私自身が必要なことと信じて行ったことではありますが、後に仲間からの𠮟責も受け軽率な行為だったと反省しております。実際に手を出した身として決して偉そうに言えることではありませんが、どなたも真似なさらないようお願い申しあげます。

 

 

1.カエンタケを取り巻く実情

 まずカエンタケというキノコをご存知でしょうか。カエンタケはボタンタケ科トリコデルマ属に属するキノコで、真っ赤な色をした手の指のような形をしています。その毒々しい見た目の通り強い毒性を有していて、万一喫食すると高熱から腹痛、嘔吐下痢、粘膜の糜爛、脱皮、脱毛、運動障害や意識障害、小脳萎縮、白血球の減少などなど、重篤な症状を引き起こし死亡例もある猛毒のキノコです。さらに皮膚刺激性もあるため、直接触れるだけで炎症するという他のキノコにはない毒性で知られています。


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 カエンタケ(2022年9月岡山県)


 このカエンタケはもともとあまり見つからない珍しいキノコとされていました。それが最近ではカシノナガキクイムシの増加によりナラ枯れが広がり、枯れた広葉樹の根元に出るという生態のカエンタケもその数を増やしていると言われています。時には住宅街の中の公園で見つかることもあり、先述の強い毒性と皮膚刺激性からマスメディアなどでも取り上げられるようになってきています。

 

 もちろん、こうした注意喚起がされるのはありがたいことです。キノコ中毒の原因は結局のところ人間側の無知にありますから。しかしその一方で、一見グロテスクな見た目と強い毒性、触るだけで炎症するというインパクトからか、過剰に危険性を煽るような報道も増えてきました。中には「殺人キノコ」などと、さもカエンタケが害悪な存在であるかのように扱われたこともあるほどです。断言しますが、カエンタケから積極的に人間を襲うことはありません。勝手に手を出した人間が勝手に死んでいるだけです。

 にもかかわらずカエンタケを実態以上に危険視する勢いは増していき、「近くで呼吸するだけで被害に遭う」といった全く実例もないでたらめや、「触っただけで死に至る」といった誇張された話も散見するようになってきました。現状ではカエンタケそのものの危険性をはるかに超えた危機感が広く共有され、恐怖が一人歩きしているような状態です。その結果、カエンタケの駆除が声高に叫ばれるようになり、実際に野山を回って積極的に駆除している人も現れるようになりました。

 

 このようなカエンタケを取り巻く、さながら魔女狩りのような、ヒステリックな反応は筆者を含む多くのキノコ屋が懸念する事態でした。そこで一部のキノコ屋はカエンタケに対して行き過ぎた恐怖を抱かないよう、情報発信に努めるようになりました。こちらから手を出さなければ何も恐れることはない、駆除して回らなければならないような危険な存在ではない。ただそうした活動を誤解したのか、あるいは行き過ぎた危険視に対する反動か、今度は逆の動きも出てきました。それが「皮膚刺激性への疑念」です。 

 先述の通り、カエンタケには皮膚刺激性の毒があり、経口摂取しなくても皮膚に触れることで炎症を引き起こすことがあります。ただこの皮膚刺激性を実証したデータはないことから、「皮膚刺激性はただの噂ではないのか」という意見が出始めたようです。一般の方の多くがまず目にするであろうWikipediaでは『また触るだけでも皮膚がただれると噂されているが実例もなく現在は検証中である[6]。』といった記載がなされ、SNS上で試してみてなんともなかったと投稿する方も現れました。

  これに関しては、私自身も以前にカエンタケの汁を手に塗るという動画を撮影したことがあります。これは先述の「カエンタケを過剰に恐れない」ように情報発信する一環で、触ったところで死ぬことはないと実演するためのものでした。ただ当該動画内でも触れたとおり、この時に皮膚が炎症を起こすことはありませんでした。

 

 では本当にカエンタケに皮膚刺激性はないのかというと、もちろんあります。上述の通り、私は過剰に危機感を煽り駆除に結びつける昨今のカエンタケの扱いには異を唱える立場ですが、決してカエンタケの毒性を侮っていいとは考えておりません。恐れすぎず侮りすぎず、正しい知識と情報をもって接してもらうことを願っています。

 

 

2.皮膚刺激性の実証

 そこでカエンタケの皮膚刺激性について、わかりやすいように実証することにしました。用意したのはカエンタケ2本。鮮やかに赤々しい若い個体と、やや色が退色してくすんできた古めの個体です。これらを輪切りにし、条件を変えつつ腕に固定、そのまま1時間置くというパッチテストを行いました。この際行った条件は下記のとおりです。

  

     左腕の内側(古めの個体)

a.カエンタケの外皮を接触

b.カエンタケの断面を接触

c.水で湿らせた断面を接触

d.無水アルコールに浸した断面を接触

e.無水アルコールを湿らせた脱脂綿を接触

 

     左手の甲(古めの個体)

a.カエンタケの断面を接触

b.水で湿らせた断面を接触

c.無水アルコールに浸した断面を接触

 

③右手の内側(若い個体)

a.カエンタケの外皮を接触

b.カエンタケの断面を接触

c.水で湿らせた断面を接触

d.無水アルコールに浸した断面を接触

 

④右手の甲(若い個体)

a.カエンタケの断面を接触

b.水で湿らせた断面を接触

c.無水アルコールに浸した断面を接触

 

 

 ※左腕には色の退職した古めの個体、右腕には色の鮮やかな若い個体を使用。それぞれ切片を乗せた後、マスキングテープで固定し1時間放置。取り外した後はアルコールで腕全体を拭う。念のため皮膚の強さで違いが出るか検証するため、腕の内側(手首側)だけでなく手の甲でも試した。また①-eはアルコール単体による皮膚かぶれがあるか確認するために行った。

 なお被検体は30代後半の成人男性。身長180㎝、体重75㎏。アトピーなども含め、特にアレルギーは持っていない。持病や服用中の薬はなく、実験当日は平熱で体調にも問題はなかったがやや寝不足気味だった。

 

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許可を取ってある場所で採取したカエンタケ。右側の個体を使用。


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1センチ間隔で輪切りにして切片を作成した。


 

 実験を行っている最中、皮膚には痛みも痒みもなく、違和感は全くありませんでした。1時間が経過し、切片を取り外した後も押し付けた跡や流れ出た色素で赤みが出るくらいで異常はなし。腕全体をよく洗い、実験個所を見失わないようにペンで印をつけてから就寝しました。


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 翌日、仕事に出た先で確認したところ肉眼的には特に変化なし、と思っていましたが撮影した画像を見るとやや白っぽくなっているのがわかります。そして顕著な変化が出たのはさらに翌日のことでした。この日は外仕事が入っており、体温が上がり汗も大量にかきました。その際に野外での作業によって体温や血流が上がったことに関係しているのか、実験を行った箇所が全て赤く炎症を起こしていることに気づきました。色は手の甲の方が濃く、これは直接日光に当たったことも影響しているのではないかと思われます。炎症範囲はa~dの内、後者になるほど広く、やはり水分やアルコールを用いることで成分が抽出され、被害が大きくなるのが確認できました。炎症した部位は常時では特に痛みはありませんが、タオルで汗を拭いたりシャワーを浴びたりすると日焼けした時のようにヒリヒリと痛みました。


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実験翌日の様子。やや白くなっている。



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さらに翌日。切片を置いた個所は全て炎症を起こしている。


 この時点で驚いたのは断面だけではなく、外皮だけ触れていた部分(1-a)もしっかり炎症を起こしていたことです。それまで「カエンタケで皮膚刺激性があるのは内部の汁に触れた時だけ」という話を聞いており、外皮に触っても問題ないと考えていました。しかし実際は固定していた切片の形そのままに赤くかぶれ、外皮だけでも炎症を引き起こすことがわかりました。なお私はアルコールには弱い性質らしく、アルコールのみの部分もかぶれていました。

 

 一週間後には赤みはなくなりましたが色素が沈着してシミのような跡が残りました。特にアルコールを用いた部分は範囲が広く炎症しており、あせもかぶれのように触ると凸凹していました。この頃になると日焼け時のようなヒリヒリ感はなくなっていましたが、軽く指で押すと打ち身のアザような皮膚の奥の方で鈍い痛みを感じました。その翌日には水ぶくれのようなものがいくつもでき、皮全体がカサカサになり自然と剝がれていきました。現在では皮も再生し、触ったところで痛みも何もありませんがシミはそのまま跡になって残っています。


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炎症の跡。痛みは引いても色は残り続ける。


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水ぶくれが三か所できている。


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水ぶくれが敗れた個所などから皮が剥け始める。

 


 以上がカエンタケの皮膚刺激性の実証実験になります。検証は現在も継続中で、今後はシミが目立たなくなるまでどのくらい期間を要するのかを確認したいと思っています。


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実験から10日後。

痛みなどはないが跡は残っている

 

 こうしてカエンタケには実際に皮膚刺激性があり、直接触れることで炎症を引き起こすことは確認できました。しかしながら冒頭でも説明した通り、これは非常に危険な実験でした。カエンタケに含まれるトリコテセン系マイコトキシンは経皮吸収されるとはいえ、その速度は遅いものとされています。以前に撮った動画で汁をこすりつけてもなんともなかったのは皮膚に吸収されるより早く乾いてしまったことが一因なのでしょう。しかし一方でこの毒成分は有機溶剤に抽出されやすい性質があるため、アルコールなどに浸すとその浸透速度も速くなります。有名な中毒事例でお酒に浸してカエンタケを摂取したケースがありますが、あれもアルコールに毒成分が抽出されることでより重篤な症状に繋がったと思われます。

 またマイコトキシンに類似した構造を持つT-2トキシンにはアポトーシス発現でDNAを破壊し、発がん性を持つという研究結果があります。カエンタケについては今のところ哺乳類を用いた経口摂取実験で発がん性は確認されていませんが、長期的なデータなどは不足している状態です。何より毒成分が皮膚を通して吸収されているのは確かであり、それによって炎症を起こすこともこうして実証されました。実際に試した身で言うと「どの口が」と思われるかもしれませんが、危険な行為ですのでくれぐれも真似をしないでください。私自身、アルコールの使用など軽率に過ぎたと切に反省しております。

  

 

3.カエンタケの危険性と駆除の是非

 今回の実験でカエンタケには実際に皮膚刺激性の毒があり、直接触れることで炎症が起こりうるということがわかりました。それではやはりカエンタケは危険なキノコであり、駆除が必要な存在なのでしょうか。

 これに対して、私は実験を行ったうえでそうではないと主張します。確かにカエンタケは強い毒成分を持っており、皮膚刺激性も有しています。皮膚からの吸収は遅いと上述しましたが、では何秒までなら触ってもいいのかなどは未だわかっていません。万一のことも考えるとわずかな時間であっても直接手で触れるべきではないでしょう。

 しかしながらそれは言い換えれば「触らなければ何も問題がない」ということでもあります。マムシやスズメバチなどのように向こうから襲ってくることはなく(これらのケースも正確には人間側が近づいたことに対する自衛行動なのですが)、ツタウルシのように近づくだけでかぶれるということもありません。


 何より忘れないでいただきたいのはカエンタケ自体も生態系の一部であり、自然環境を構成する一員です。先にカエンタケを駆除して回っている人がいると述べましたが、本人は善意で行っていることだとしても結果的に見るとそれは環境破壊に他ならないでしょう。

 あまりキノコに馴染みのない方からすれば不安に思うこともあると理解はしています。例えば住宅地の公園内など、生活圏に発生した場合は子供が手を触れる恐れもあり、駆除するべきという意見にも納得できます。過去に京都御苑内でカエンタケが発生した際は、一般の利用者も多いことから駆除が行われました。京都御苑は市街地の中にあり、犬の散歩や観光客も多い場所なのでこれは妥当な判断だと思います。

 しかしこれが山林や自然公園ではどうでしょうか。本来自然の豊かさに触れ、自然を学ぶべき場で「うっかり触れると危ないから」という理由だけで、動きもしないキノコを駆逐することが正しいとは思えないのです。


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カエンタケに注意を促す看板。


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ハチの巣に注意を促す看板。


 例えばとある自然公園ではこうした看板を設置することで来園者側に注意を呼び掛けています。スズメバチの巣に対しても同様の処置がとられており、人間の方が自然に配慮するよう促している形です。どちらも人間が近づかなければ危険なことはなく、何ならば近づいたところで触りさえしなければ問題ないカエンタケの方がより無害な存在と言えるでしょう。人間の生活圏において野生の生き物に遠慮してもらうのはもはや仕方のないことになっています。それならばせめて自然の場においては人間側が配慮するべきではないかと考えています。


 またカエンタケの駆除に関しては一部自治体において見つけ次第連絡・通報するように呼び掛けているところもあります。このことから当記事のようなカエンタケの必要以上の駆除について苦言を呈する側に対して、「自治体が言ってるんだから従うべきでは」という意見もあります。ただこれに関しては、こちらも決して理屈や根拠なしに反対しているわけではないこと、全ての駆除に反対しているわけではないことをご理解いただきたいです。

 加えて言うなら、自治体の担当者の方々は決してキノコの専門家ではありません。自治体がそうした対応を行うのは上からの通達があったからで、上がそう判断したのは市民から要望があったからです。言うなればカエンタケをよく知らない一般の方が不安に駆られて行政に相談し、市民からの声が上がったので対応せざる得なくなり、何かしら対応するよう現場に指示が下るという流れです。実際のところ、ナラ枯れの進行している自然公園などでは至る所にカエンタケが発生するようになっています。個別に通報を受け付けて、捜索して、駆除していてはとても現場の仕事は回りません。一人一人がむやみやたらに恐れず自然に寛容であることで、こうした流れを止めることができると期待しています。


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カエンタケによく似たベニナギナタタケ(可食)。

通報されるものの中にはこうした誤同定も多く含まれる。

 

 

4.まとめ

 現在カエンタケを取り巻く環境は実に混沌としています。研究している専門家、過剰な駆除を止めたいアマチュアキノコ屋、インパクトあるニュースが欲しいマスコミ、安心を求める一般の方、責任を被りたくない行政。過度に恐怖を煽る一方で毒性を軽視する声が上がり、様々な情報・意見が入り混じっているのが現状なのでしょう。当然のこと、カエンタケを含めキノコ全般はまだまだわからないことばかりの分野です。今現在言われていることも将来的には変わる可能性もあります。それでもその時その時で信じられる根拠のある情報に従い、理性的に動くのが結局は自分の利益に繋がるのだと思います。

 

 長々と書き連ねてきましたが、今回の話をまとめると


① カエンタケには皮膚刺激性があり、皮膚に触れることで実際に炎症は起きる。

② カエンタケの毒と類似の毒成分では発がん性が確認されていることもあり、安易に皮膚刺激性を試すべきではない。

③ 食べたり触ったりしなければ向こうから害をなすことはないので過剰に恐れるものではない。

④ 駆除そのものを全て否定しているわけではないが、カエンタケ自体も自然環境の一部としてむやみに駆除するべきではない。

 

 といったところでしょう。私自身キノコ屋としてキノコ寄りなことは自覚しておりますし、過去にカエンタケの毒性を前面に押し出した動画を作成したこともあり、一様に言い表せない思いがあります。そのためわかりにくい部分もあるかもしれませんが何卒ご容赦いただければと存じます。今後もキノコの情報を発信しつつ、正しい知識で正しく恐れることができるよう、尽力したいと思います。何卒よろしくお願い申し上げます。

 

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コメント

非常に興味深い実験ありがとうございます。
同じような実験をしている動画の参考記事になっていたので読ませていただきました。
シミがいつ頃消えるのか是非続報をお待ちしています。

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