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その2:富士山キノコメモリー

≪注意≫
 本ブログはキノコ屋見習いの観察をざっくりまとめたもので、実際の同定に利用できるものではありません。キノコの正確な判別は経験者でも間違えることもある難しいものです。慣れない内はベテランの方に付き添ってもらうなどして、素人判断での採取・喫食は行わないでください。死んだり死ななかったりします。

 なお記事内容に訂正・補足がある場合はコメントなどでご指摘いただきたく存じます。


 9月の話。今更だって声もあるでしょうけどそういうのがそもそも今更なので気にせずやっていきましょう。事の起こりは2017年8月の話。私が前回記事にあげた観察報告などをドヤ顔で仲間に自慢していたころ、勝手に自分の中で師匠扱いしているosoさんから富士山遠征の話が上がりました。富士山と言えば言わずと知れたキノコの聖地。世界遺産登録も8割がたキノコのおかげというのが業界内では共通の認識です。そんなわけで私たちは親しい仲間内で年1~2回(多いときは3回以上)富士山遠征を行っています。

私「行くとしたら9月の三連休かな」
oso「16日の夜に現地入りして一泊、翌朝早朝からってのでいいんじゃない」
どろ「さわやか行こうぜ。さわやか」


 とりあえず私とosoさん、どろんこさんで日程調整。一人ハンバーグ屋の話ばっかしてる人がいましたがまあ行くならやはり連休だろうと。と、ここで問題が発覚。

私「すまん、連休空いてるっていったの嘘だった。17日用事あるわ」

 完全に失念していた予定を思い出したため再調整。一方でosoさんには富士山のキノコを知り尽くしたベテランで、以前アカネアミアシイグチのポイントを案内していただいたことのあるもろぞーさんに連絡を取ってもらっていました。しかしもろぞーさんは別の予定が入っており、連休中は17日しか空いていないとのこと。


 その後当日参加するメンバーと協議した結果、
「アカネアミアシイグチが見たい」
「できるだけ色んな種類が見たい」
「ドクツルタケのきれいなのが見たい」
 などといった自分以外を慮って譲り合う言葉が乱れ飛び、最終的に15日の夜に現地入りして一泊、翌16日に以前案内していただいたもろぞーさんルートを歩くということになりました。ただ実際のもろぞーさんルートはちょいちょい道を外れて歩くので、そこは登山道から離れないことを念頭に置いて行動しなければなりません。

 さああとは当日まで待つだけだ。この調子なら天気も大丈夫そうだな……と思った矢先に急展開。当初あさっての方向へ向かっていた台風18号がえぐり込むような変化球で本州に突っ込んできました。このままいくと連休の休日にぶつかる可能性が高い。それに加えてosoさんが仕事の関係で15日の現地入りは難しいということに。
 ここに至ってトラブルの連続。これは何かの暗示かもしれない。そうでなくたって天気が荒れる可能性があるわけだし、大事をとって中止するのも一つの手です。さて……。



 まあ、行くんですけどね。

 そもそもここで中止にしてたら記事にしません。
 先述の通りosoさんの前日入りができなくなったので同乗させていただく私は15日の夜に名古屋へ向かいネカフェで一泊。16日の早朝、というか深夜4時に名古屋駅にてosoさんに拾っていただくことになりました。
 私同様にoso号に同乗するアメジストの詐欺師さんと深夜の駅前で駄弁りながら時間を潰しているところにosoさん合流。いざ富士山へ向けて出発です。

oso「天気は大丈夫そう。この調子だと荒れるのは明日になってからだろうし」
私「これじゃあどの道17日は無理だったろうね」
oso「ただもろぞーさんルートはやめた方がいいかもしれない。もろぞーさんに聞いたんだけど、今年キノコの出るタイミングがずれてて今アカネアミアシが全然出てないみたい」
私「ありゃそうなの。地元も出が悪かったし、今年はキノコの外れ年かな」
oso「それに向こうは結構登るし、天気悪い日はあんまり行かないほうがいいと思う」


 といった会話が車内でありまして、土壇場でのルート変更。もともと針葉樹林を歩くもろぞーさんコースを選んだのはレアキノコであるアカネアミアシイグチが見られるの可能性があったからで、それが見れないなら本末転倒。ならば広葉樹林で見られる種類も多く、高低差の少ないosoさんルートの方がいいだろうということになりました。ということで助手席の私が直接現地へ向かうメンバーへ連絡。
 ちなみにこれらのやりとりをしている最中、なんか静かだなと思ったらアメジストの詐欺師さんは後部座席で爆睡してました。寝つきはいいと聞いていましたがほんとに早いな。乗り込んで何分だ。結局この後4時間ほどの道中はほとんど私とosoさんの二人旅みたいになってました。全く、乗せてもらっている身でありながら悠々と寝こけるとは何事だ。

 その後安全運転を続けて無事に富士山山麓に到着しました。集合場所の駐車場付近ですらカラマツ林があるってんだからすごい。テキトーに散策しながら待っているとこの日のメンバーが全員揃いました。

osoさん:キノコも虫草も行ける口。『oso的キノコ擬人化図鑑』好評発売中。
どろんこさん:虫草屋の師匠。地元の新聞で虫草のコラム連載してた。
木下さん:アウトドア経験豊富な最年長。この日も前日入りでテント泊。
アメジストの詐欺師さん:盤菌(チャワンタケ類)好きというもの好きな学生。
私:私

 普段はチャットでそれぞれ見つけたキノコの報告(という名の殴り合い)をしているメンバーです。私とosoさん、木下さんは全員と面識がありますが、どろんこさんとアメさんは今回が初対面。虫草屋と盤菌屋で多少畑は違えどキノコ好きに違いはなく、すんなり馴染めてました。ただどろんこさんがアメさんのことを「詐欺師さん。詐欺師さん」と呼ぶので、そっち残すのかぁと思いました。

 面子も揃ったところで時間が惜しいのでさっそく出発。osoさんと木下さんの車二台に分かれて進みます。まだ本格的な山道にも入っていないのに雰囲気ばっちりなのはさすがの富士山。まあ風景写真とか撮ってないんですけど。そこは実際に行ってもらってということで。

 手始めに歩いたのは以前クロカワを見つけたポイント。時期が合えばベニテングタケも見れたりするらしいのですがこの日は特に面白いものも出ていない様子。やっぱり今年は出が悪いのかなぁと一人離れて斜面を見ているとオレンジ色がピョロピョロと出ているのを見つけました。

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 最初に見つけたのはサナギタケ。この日はキノコを探す気で来ていたのに真っ先に目に入ったのが虫草とは。カメラを車に置いたままで撮りに行くのが面倒だったので現場写真はなしですが、数が出ていたので二本ほど採取させてもらいました。そういえばサナギタケとか普通種過ぎて胞子も見てないし標本も持ってなかったな。ただこいつ子嚢殻(胞子作る器官。表面のイボイボ)の付き方がおかしいですね。標準的な個体ならもっと全体に万遍なくつくのに。どうにも奇形が入っちゃってるみたいです。これはこれで面白いのが見れたかな。

 サナギタケの坪からさらに奥に進んでいよいよ本格的に探索開始です。基本的に移動は車道沿いなので迷うことはありませんが、足元は火山岩でやや不安定。ところどころに風穴が顔を覗かせるので注意が必要です。

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 アカツムタケ。針葉樹材に生えるモエギタケの仲間。地元でも見たことある相手ですが、名前の通り赤褐色の傘が可愛らしい。こいつは材が崩れて地上性みたいになってますね。

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 車道から何か黄色いのが見えるなぁと思って近づいてみると大きく花咲くキンチャワンタケ。前から見たかった相手なので喜び勇んでカメラの準備。盤菌好きなアメさんも大はしゃぎ。しかしこんなに大きくなるんだなぁと思っていたら、
oso「いや、これは大きすぎますね」
 とのこと。富士山では割とよくある。


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 アセタケの仲間。カバイロトマヤタケとかかなぁと話していました。ただ実際のとこは謎。アセタケはねぇ……。


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 ホウキタケの仲間。ホウキタケはねぇ……。


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 ハナイグチ! わかりやすくて助かります。カラマツの周りに生える優秀な食菌。地方によってはラクヨウとかジコボウといった愛称で親しまれています。この写真ではちょっと角度的に見えないのですが、ツバの上部についた網目模様が特徴。


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 ヤギタケ。名前の由来は色合いがヤギに似てるからだとか。なんでか私は長いこと「ヤギみたいな臭いがするから」だと思い込んでて、この日も得意気にそんなこと言ってた気がする。すまん、ありゃ嘘だった。ヤギみたいな臭いがするのはフウセンタケの何かだった。それすらもうろ覚えでもうどうしようもねえな、これ。


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 ヘラタケだー! とはしゃいでいましたが即座にosoさんから「コゲエノヘラタケですね」と訂正が入りました。名前の通り焦げたような暗色が特徴でヘラタケはもっと淡い黄褐色をしています。他にも頭部がしわくちゃになったり柄に短い毛が生えてたりと違いがあります。


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 ついで見つけたのはコスリコギタケ。これまた自分は「なんだっけこれ? スリコギタケだっけ?」ってな感じでしたがosoさんに「コスリコギの方じゃない?」と言われ、ああそういやそんなのもいたなぁと。図鑑を見るに普通種らしいのですが、目にするのは多分初めて。まああの手の図鑑の普通種とかってベテラン勢からしたら普通みたいなとこあるし、地方によって発生状況は全然違うもんです。


 他にも写真にはとっていませんがショウゲンジやらフジウスタケはそこら中に生えてました。ここら辺は富士山歩いてると本当に見飽きるほどにいるので写真は撮らずにオッスオッスと挨拶だけで済ませます。以前ならいちいち立ち止まって観察してたろうに、熟れてきたというか擦れてきたというか。
 しかしこの日が富士山デビューなアメジストの詐欺師さんはあれやこれやと見つけて楽しんでいる様子。熱帯の方はちょくちょく遠征しているらしいので意外に思いつつも、ああいう新鮮な気持ちを忘れてはいけないのだなぁと自らを省みました。ただそこらのベニタケの仲間見つけて持ってくるのは勘弁してください。わかんないです。


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 そんなアメさんが熱望していたのがこちらのベニテングタケ。やはりキノコをやっている人間なら憧れの相手ですよね。ただ富士山で見られるベニテングタケは本家本元であるシラカバに生えるものではなくてブナ林に生えるタイプ。柄やイボが黄色味を帯びたりと微妙な差異が見られます。「青森県産きのこ図鑑」ではこれをブナノベニテングタケとして別枠で記載しています。もっともまだ仮称段階なのでとりあえずここではベニテングタケとして置いておきましょう。

アメ「うおー! やった! ベニテンだー!」
私「おーおめでとう。でもあれだね。これまだ幼菌だね」
木下「やっぱり図鑑見たいな開いた状態のが見たいですよねぇ」
oso「あれねぇ。なかなかないんですよねぇ、綺麗にイボが残ってる成菌って」


 感動に水を差す大人たち。嫌な連中だな。
 でもちゃんとみんなアメさんのためにいい個体を探して回っています。立派なベニテングタケの成菌を見せて喜んでもらいたい、その一心から来る思いやりの心です。決してここで恩を売っておこうとか、先んじていいやつ見つけてドヤ顔で自慢してやろうといった心持ではありません。本当です。嘘じゃないです。


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 そうして見つかったベニテンの別個体。これもちょっと古くなっちゃってるんですけど、この日の中では一番立派な状態でした。それほど強くないまでもリアルタイムで雨の降る中、よく残っていてくれたと言ったところです。念願のベニテンに会えてアメさんも満足いったようです。そしてここで先述のブナノベニテングタケの話を聞かせて混ぜっ返すのが私です。
 シラカバ林のベニテンも見に行きたいですね。


 それからしばらく歩いていくとosoさんが「ここら辺でオオモミタケが出るんですよ」と言うポイントに到着しました。私は何度かosoさんの案内で来たことがあるのですが、肝心のオオモミタケには今のところで会えていません。なので今度こそはという意気込み半分、もう出ないんじゃね? という疑い半分で探し回りました。いや、osoさんを疑っているわけではなくて、キノコって環境の変化やらそのキノコの性質やらで急に出なくなったりすることがあるんですよ。そんなわけで出ればいーけどなーと気もそぞろに歩いていると、osoさんの声が響きました。

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 初めて見ましたオオモミタケ。名前の通りモミ林などに生える大型のキノコ。大きいものだと傘径30㎝ほどにもなります。柄についている二重のツバが特徴ですね。これは倒木が邪魔で掘れなかったのですが、柄の基部は細くなって地中深くに伸びています。結構な範囲を5人がかりで探しましても生えていたのはosoさんの見つけたこれ一本だけ。やはり発生量は少ないみたいです。というか本当にあったんだな……。信じる気持ちって大切なんだと実感しました。

 私が疑心に囚われるのをやめ、人を信じる心を取り戻したところでちょうどルートを一周。車を止めた場所に戻ってきました。ここら辺で小雨だった雨脚も少しずつ強くなり始め、一通り見れたしもうこれでお開きにしようかみたいなムードが漂い始めました。各々持ってきた標本を見せて駄弁ったりしていると山道から別の一団が下りてきました。装備から察するにキノコ狩りに来た地元の人のようです。何を採ったのか見せてもらうと袋の中にはマツタケがどっさり! マジかよ! 今年は不作じゃなかったのか!?
 実を言うと今回の富士山遠征の目的の一つはコノマツタケでもありました。しかし道々探して歩いてもまるで見つからず、もうこれ生えてないんだよと言い聞かせていたところにこの仕打ち。何でもこの方たちはもう20年も富士山に入っているのだそうで年季の違いを見せつけられました。

 さあこうなってはじっとしていられません。生えているのがわかったなら探したくなるのがキノコ屋の性です。さっきまでの消化試合感はどこへやら、近くの松林に突撃をかけました。今までとは打って変わってじっくり丁寧に地面を見てまわります。この感じはキノコ狩りというより虫草や地下生菌探しに近いものがありますね。
 そのおかげもあってか、新しい発見もあったり、

どろ「ガガさーん。ドクヤマドリだって」
私「おーいたんだ」
どろ「これ食べれるー?」
私「あー食える食える」
どろ「ふざけんなてめえ」


 うるさいな。今こっちはマツタケ探しに夢中なんだから向こうで遊んでなさいよ。と、軽くあしらいつつ地面に這いつくばっていると何やら鮮やかな色合いが。あれ? これは……虫草じゃない?

私「どろんこさん、これ。虫草だわ。宿主は……ハチか!」
どろ「いやそれアリだよ。ムネアカの女王」


 まあアリもハチも似たようなもんですよ


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 というわけで最後に見つけたのはマルミアリタケ。虫草を探すつもりではなかったのにマツタケ探しのおかげで見落とさずに済みました。名前の通りムネアカオオアリなどのアリから発生する虫草です。前にも一回見せてもらった宿主をハチと勘違いしたことがあった気がする。女王アリってでかいし雰囲気がアリっぽくないんですよね。
 よく似たものにアリタケというのもいますがこちらは小型で子嚢の長さが短いといった違いがあるとされています。ただ日本で見つかるのはほとんどマルミアリタケの方だし、大きさや子嚢の短さは宿主による違いじゃないの? って言われてて、個人的にも同種だろうと思ってます。


 最後の最後に虫草を見つけて自分もだいぶ虫草屋に染まってきてるなと実感したところでこの日はお開き。雨も強くなってきたし、帰りの時間を考えたらそろそろ下りねばならない時間です。どろんこさんと木下さんとはその場で別れ、私とアメさんはまた行きしと同じくosoさんの車で名古屋駅まで送っていただきました。
 途中夕食としてどろんこさんオススメのハンバーグ屋に寄ろうとしましたがあまりの混み具合に断念。結局いつも富士山に行った時に利用するSAで食事を済ませました。

 帰りの道中も例によって爆睡するアメさん。心優しいosoさんは気にしていないと言っていましたが、親しき仲にも礼儀ありというものです。ここは口うるさく思われようと自分がびしっと言っておこうかと考えていると一瞬の空白を開けて急にosoさんが話しかけてきました。

oso「ガガさん。ガガさん、すみません。ちょっと睡魔が限界みたいなんでちょっと運転変わってもらえませんか?」
私「……あ、はい。いいですよ。じゃあ次のSAかPAで交代しましょう」


 普段同乗させてもらっている身として断るべくもありません。喜んで交代させてもらいましょう。なあに最近はレンタカーとかで運転する機会も増えてますから大丈夫です。それと何より、
 今どういうわけかすっごい目が冴えてるんですよね。

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